ヴィジュアル系の世界では、浅葱という名前はおそらくすぐに人気バンド「D」のボーカルを思い起こさせるでしょう。そして、それは今でも間違いないと思います。しかし、今回はDについてではなく、浅葱の他の活動のいくつかについてお話します。
Dは別にして、浅葱はまたグループの他のメンバーの助けを借りないで長年音楽を作り続けています。2006年のシングル「 Corvinus」に始まり、その後の2016年の「Seventh Sense/屍の王者/アンプサイ」でその活動を続けています。
しかし、2018年1月31日、浅葱はソロ作品の名前を「浅葱」に変えた(以前と同じ”ASAGI”ではあるが漢字に変えた)だけではなく、彼はまた以前の2つの作品とは全く異なったテーマのフルアルバムをリリースしました。 そのアルバムの名前は斑で、これは点、斑点、更には汚点も意味しています。(注釈:これには不均一や不規則といった意味もありますが、この場合は「むら」と読みます。まさにこれが浅葱自身がこのリリースで参照したものです。従って、これから「斑」を見ていきましょう。
前述した通り、テーマもこのリリースで変わっています。以前のようなゴシックまたは普通の様式よりは、浅葱は本来の日本人音楽家としてのルーツにぴったり合う遥かに伝統的なテーマを選びました。このテーマと共にまた現代のギター、バスやドラムに加えて、三味線、琴や太鼓のような伝統的な楽器も取り入れています。そして、浅葱はこれらの全ての歌を自分自身で作詞作曲する一方で、彼自身のバンドや ヴィジュアル系だけでなく他のジャンルの音楽家の助けも借りてこのアルバムを創作しました。
ここにリストアップした全てのアーティストに関しては、少なくともアルバムのレビューを行います。
そのアルバムは限定版と正規版の両方がリリースされましたが、正規版には限定版にない特別トラックがありますので、今回はこの正規版を詳細に見ていきます。
そして、そうです。私はこのレビューが発行されるときそのアルバムがリリースされてからたっぷり4年が経過していることに気付いています。しかし、オンラインを見たとき、このアルバムに関して語るべきことがたくさんあるにもかかわらず、日本語以外の報道はほとんど見かけませんでした。 少なくとも、私はあなた自身で気付かなかったかもしれない世界をあなたに紹介したかったのです。私は日本人ではないためあちこちに些細な間違いがあるかもしれないことをご容赦いただけたら幸いです。しかし、あなたにとって参考となる重要なことのほとんどをとらえたと思います。
★ この記事はもともと英語で書かれています。これは、元の形式の日本語訳です。
さて、この普通ではない長い前書きを終わらせてアルバムの紹介に入りましょう。
天地行き来る小船
最初の20秒間に亘るイントロについては、語るべきことがたくさんあります。私たちは既にこのアルバムは伝統的なテーマを扱っているということを知っています。そして、あなたは実際にそのミュージック・ビデオの最初の部分でこのイントロを聞くことができます。そうです。それは、大まかに「天国を現世を行き来する小舟」と訳される名称の伝統的なテーマを活用したイントロです。
月界の御子
「竹取物語」は著者が不明で9世紀終わりか10世紀初めの平安時代に書かれ、現存する物語形式の作品では最も古いと考えられています。それは、お月様からやって来て竹の中で赤ちゃんとして発見されたかぐや姫の一生を描いています。彼女はその美しさから5人の男に結婚を申し込まれますが、彼らに不可能な難題に挑戦させて全て拒否します。その後、彼女は日本の天皇の愛を得ます。 物語の最後に、彼女は自分が月から来たことを天皇に告白し月へ戻ります。
畏き海へ帰りゃんせ
次の歌は「畏敬の念を起こさせる海へ帰りなさい」と訳され、曲と比較してあなたが期待する程の歌詞がない歌で、スローテンポのバラード調で多くの感情を伝えています。伝統と現代が曲の最中にどこかで出会い、それは現代楽器の使用を通して、また歌詞の暗いねじれた隠れたどこかで、しばらくの間故郷を離れるという物語の伝統的な話し方を通して行われています。
花雲の乱
もしあなたがDの浅葱の作品をよく知っていれば、この曲は最初の音から聞き慣れているでしょう。(そしてそれはギタリストHIDE-ZOUもこのトラックを担当しているからだけではありません。)より力強いコアをもったより速いテンポはD自身のレコード目録に容易に適合するが、このアルバムの伝統的な影響と結合して、浅葱のよく知られたボーカル・スタイルで速いペースのメタルのような曲を作り出しています。“花雲の乱”は“flower cloud turbulence”のように翻訳され、反抗的気質を示すために歌詞の中にも再び現れる最後の漢字の乱を活用しています。
隠桜
“隠桜”はちょうど以前のもののようで、浅葱のソロアルバムよりむしろDのアルバムで現れれば驚かないでしょう。浅葱は自身の作品(どのプロジェクトかに依らす)でよく知られた典型的なスピードを使って、英語では“Hidden Sakura”と訳される“隠桜”を何とかスロースタートのしかし力強いスピードメタルの歌に変えました。コーラスの中で彼は次のように頼みます。「隠桜よ、私を笑みで一杯にしてくれないか。」しかし、本当は恐らく彼からリスナーとしての私たちに「笑みで一杯になってください。」と言いたかったのでしょう。それが彼の典型的なスタイルです。
螢火
“螢火”ではスピードは前述の2つの曲とは反対に僅かに抑えられています。しかし、琴がミキシングに取り入れられより親しみやすく穏やかな雰囲気を作り出していますが、一方では依然、曲のヘビーなコアのお陰で伝統的なものを現代的なものと融合させています。“螢火”は“the glow of a firefly”と訳されますが、私の考えでは、浅葱は琴の助けを借りてそれを何とか曲にしたかったのだと思います。一方で、歌詞は戦闘態勢にある軍隊の感じを漫然と描写しています。
大豺嶽〜月夜に吠ゆ〜
“大豺嶽~月夜に吠ゆ~”は絶対的にその名前に敬意を払っています。そして、それは大まかにその曲と歌詞と共に“barking on a moonlit night”と訳されます狼や大きな犬のようなしかしまた戦闘の中のような吠えている何かによってのみ描写され得るある種の決意があります。行間を読めばわかるように“螢火” (Hotarubi)が既に侍の本質を捉えていた一方で、“大豺嶽~月夜に吠ゆ~”もこの同じ侍の要素を捉えています。
しかし、それは曲の最初に散りばめられたほんの少しの決意と共に、歌詞が何か他のものの上で決意を響かせる楽曲をもった相対的に速いペースの戦闘曲のような歌です。
この歌では伝統楽器としてまた三味線を選んでいます。三味線は大音響の中で独特の音を創出することによって、その歌に特別な一面を加味しています。
冬椿 〜白妙の化人〜
前の曲は決意が全てでしたが、“冬椿 ~白妙の化人~”は余波が全てです。浅葱によって歌われる悲しい歌詞にある特別なパワーを与えるために、ペースを落としてバラードにしたりもう一度三味線と琴を活用しています。歌の題名は英語では“Winter Camellia ~White Mysterious Person~”と訳され、歌詞は孤独と悲嘆についての詩的なストーリーです。私は個人的には浅葱の声はバラード調の音楽にはあまり向かないと思いますが、彼は劇場で期待されるような情緒的な方法で何とか彼のストーリーを伝えようとしています。この歌の主な魅力は楽器ですが、それは浅葱の声と結合して多くの特徴を付け加えています。
白面金毛九尾の狐火玉
結局、九尾狐は姿形を変える能力があり、道の途中で出会った人達をからかうことで知られています。この曲はまた「伝統が現代に調和する」のもう一つの主な例です。なぜなら、三味線と琴の両方は現代楽器のエレキギター、ドラム、バスと完全に調和して一つになっているからです。“As far as the world is concerned, yesterday’s flowers are today’s dreams”はまた、一つ以上の意味に解釈され得ると思いませんか。
鬼眼羅
日本の民話では「鬼」もよく現れます。そして、彼らはいつも一種の混乱を引き起こします。“鬼眼羅”はこの種の混乱を初めから終わりまで具現化しています。そして、伝統的な楽器を使わなくてもこの曲に伝統的な味を付けて高速のメタルに仕上げています。私は今までどのアーティストがその曲に関わっているかを言及しませんでしたが、この曲に関しては例外で、あなたははっきりとLeda(Far East Dizain)と MiAあ(MEJIBRAY)の両方のギターのスタイルを聞くことができます。もしあなたが彼らの作品をよく知っていればですが。さもなければ、これらの名前はあなたにとって意味がありません。しかし、彼らはヴィジュアル系のジャンルでは高速ギターのリフでよく知られていて、それは明らかにこの歌で戻ってきています。
雲の通ひ路
もう一つのバラード「雲の通ひ路」(Kumo no Tsuuhiro)、英語名「the cloud’s passage」では曲のスピードを落として、違った形式で正反対のものについて話しています。しかし、それはまた現代楽器を使わないで代わりに和太鼓と琴のみを使っている唯一の歌です。この歌のペースはまた前述のバラード「冬椿 ~白妙の化人~」より遅いです。前述のバラードで選ばれた要素は雪ですが、このバラードでは水でその歌の進行はまた独自の方法で川を連想させています。
妖刀玉兎
「妖刀玉兎」はそのアルバムで一番最初の曲ではなく一番短い歌でもありません。そして、その上正規版だけで見つけられます。私は曲名は英語では大まかに「Magical Sword of the Moon」と訳しましたが、これはかなり自由な翻訳です。(他の翻訳には「bewitched sword」や「demon sword」がありますが、どの版を参考にしたのかはっきりわかりませんので、個人的な好みでこの翻訳にします。
前述のように、それはこのアルバムが伝えたいストーリーの短い部分だけの歌です。そして、たとえあなたが限定版を聞いたとしてもこの曲がないことに気付きもしないでしょう。それは単に月の宮殿に貯蔵されている宝物が、あなたの予想通り、この刀であるということを詳述しているだけです。
物の怪草子
「物の怪草子」で斑の動乱のストーリーを続けて、それは即座にそのアルバムで最も攻撃的な歌であるという評判を得ます。(それは時折「鬼眼羅」で表現されたカオスに近いものですが)。「物の怪草子」は英語では「Monster of Things」と訳され、日本の民話で文字通り「百人の鬼の夜の行進」を意味する百鬼夜をはっきりと描写しています。その中で、妖怪(日本の超自然的存在)は夏の夜の間中、町に繰り出します。この行列に出くわした人は誰でも、保護されなければ、死んでしまうでしょう。浅葱の歌詞はこの出来事について詳細には述べていませんが、言葉では表現できない雰囲気を創出する楽器と暗示によって非常によく描写しています。三味線もこの歌でかなり重要な役割を果たしています。なぜなら、それはDのリードギタリストであるRuizaとGALNERYUSのSYUにより演奏される2台のエレキギターと融合しているからです。彼らは、丁度「鬼眼羅」のLedaとMiAのように、その見事なリフでヴィジュアル系のジャンルではかなりよく知られたギタリストです。そして、「物の怪草子」の悪魔のような様相を完全に付け加える絶妙のコンビを形成しました。
アサギマダラ
アーティストの名前は浅葱(アサギ)で、アルバムの名前は斑(マダラ)です。この二つを組み合わせると浅葱斑(アサギマダラ)になりますね。そうです、その通りです。しかし、それはここで作られた結合ではありません。正規版のアルバムはアサギマダラの蝶を特集した限定版とは異なったものをカバーしています。そして、この蝶は日本語で何と言うでしょうか。その通り、「アサギマダラ」です。更に、この結合に確信をもてない人への情報ですが、歌詞もまたこの蝶を参照しています。
「アサギマダラ」はこのアルバムの中での旅行の素晴らしい結びとして役立っています。そして、個人的にはこのアルバムの曲を単に聞くだけでなくその内容をより深く精査するために時間を費やしたことに非常に大きな喜びを感じていると申し上げたいです。私は多くのこれらの参照と伝統的な民話が国際的には如何に的外れであるかということをよく理解しています。しかし、このレビューがこの作品を理解するための一助になることを切に願っています。そして、また実際にこのアルバムが ヴィジュアル系と一般的な現代音楽の両方の世界において如何にユニークであるかということも理解していただければと思います。
結論
浅葱は新しい演出と従来の演出の両方をもったソロアルバムを創作しました。伝統的な楽器と彼の歌詞の中の民話が組み合わされながら、一方ではプロジェクト全体の視覚的演出が ヴィジュアル系ジャンルの範囲内で非常によくフィットしています。2曲目の「月界の御子」の背後にあるストーリーのようにいくらかの参照は非常に明白ですが、他の曲はかなり繊細で神秘的なのでリスナーには注意深く行間を読むことが要求されます。
しかし、たとえあなたが伝統的な日本の文化や民話について何も知らなくても、浅葱は彼の音楽で何とかあなたをもてなしてくれます。もう一度言いますが、それは彼の馴染みのスタイルで作られた新しい演出です。あなたが伝統的な文化とその参考資料を知っているかどうかやそれらがあなたに響くかどうかに関わらず、もしあなたがDの作品を楽しんでいれば浅葱のソロ作品も間違いなく楽しむでしょう。
浅葱は長年に亘って完成させた確固たる演奏スタイルをもっています。そして、それは斑 (Madara)で完全なパッケージとしてまとめられています。Dは、より伝統的な作品(“桜花咲きそめにけり”のような歌を考えてください)や中国(“皇帝 ~闇に生まれた報い~”)の影響さえも受けて新しいことを慎重に始めました。しかし、浅葱がこの伝統文化を自分で調べたことがないであろう現代の聴衆にこれを届けるために、この新しいアルバムに全力を注ぎ込んだのは驚きではありません。
現代楽器だけでなく伝統楽器を使用することによって多様性のあるアルバムに仕上げています。殆どのシングル曲で招かれたゲストミュージシャンもまたこの多様性に寄与しています。そして、このアルバムではただ一つのジャンルではなく実際にかなり多くのジャンルの全てのものが組み合わされています。
もしあなたが長い旅行を探し求めているのであれば、是非、斑 (Madara)を聴いてみてください。なぜなら、たとえ、話されているストーリーの知識がなくても大変楽しめるアルバムだからです。このアルバムはDでの彼のファンだけでなくそれ以上の多くの人々にアピールしています。
リリース情報
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アーティスト: 浅葱
リリース: 斑 (アルバム)
発売日: 2018年1月31日
CD番号: YICQ-10401 (限定版) / YICQ-10402 (通常版)
雪はArlequinのオーナーであり原動力です。
彼女はもともと Arlequin Photography という名前で写真家として 2009 年にこのプロジェクトを開始しましたが、それ以来ジャーナリズムと翻訳に興味を持ち始めました。 こうした関心のため、プロジェクトにはインタビューやレビューが追加されましたが、2021 年には最終的に「写真家」の限界に達し、Arlequin Magazineもそのミックスに加わりました。
雪はオランダ語を母国語とし、グラフィック デザインの学位を取得しています。 つまり、彼女はArlequin Creationsの中心人物でもあるということになります。
何年も経った今でも、彼女はArlequinで見られるインタビューやライブ写真のほとんどを担当していますが、レビューや舞台裏の仕事の大半も彼女が行っています。
彼女のレビューは海外ファンの視点から書かれているため、英語で書かれてから日本語に翻訳されています。英語版では、特定の漢字や曲名の背後にある意味を読者に説明しようとしていますが、日本語版では読者にさらにアピールするために、これらの説明は省略されています。
彼女はオランダ語と英語をネイティブレベルで話しますが、日本語とドイツ語も理解します。